田植えと稲刈りの風景が描かれた古い5円札をお持ちでしたら、それは明治初期に発行された「旧国立銀行券5円」かもしれません。すでに紙幣としての効力を失って120年以上が経つこの紙幣は、状態次第では数十万円〜百万円を超える価値がつくことがある一方、模造品や、よく似た別の紙幣と混同されやすい難しさもあります。この記事では、旧国立銀行券5円の歴史的背景や価値の考え方、偽物との見分け方、そして売却時の注意点を解説します。
旧国立銀行券5円とは?
明治5年(1872年)11月15日、江戸時代からの不換紙幣を整理し金融を円滑にすることを目的として「国立銀行条例」が公布されました。この条例はアメリカの全国通貨法(National Bank Act)をモデルに、伊藤博文の建議、渋沢栄一らの尽力によって作られたとされています。
条例に基づいて設立されたのは、第一・第二・第四・第五の国立銀行4行でした(渋沢栄一は第一国立銀行の設立に総監役として関わり、のちに頭取を務めています)。これらの銀行が発行した兌換紙幣が「旧国立銀行券」で、5円券は明治6年(1873年)8月20日に20円・10円・2円・1円の各券とともに発行が始まりました。
新規発行は明治16年(1883年)5月5日に停止され、明治29年(1896年)の法律により、明治32年(1899年)12月9日をもって全ての国立銀行紙幣が通用停止(失効)となりました。つまり旧国立銀行券5円は、現在では法定通貨としての効力を一切持たない紙幣です。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 券面題号 | 大日本帝國通用紙幣(五圓) |
| 発行開始 | 明治6年(1873年)8月20日 |
| 新規発行停止 | 明治16年(1883年)5月5日 |
| 通用停止(失効) | 明治32年(1899年)12月9日 |
| 5円券の製造枚数 | 581,962枚 |
| 寸法 | 縦80mm×横190mm |
印刷はアメリカのコンチネンタル・バンクノート・カンパニー(Continental Banknote Co., New York)に委託され、日本の紙幣でありながらアメリカの同時代紙幣に似た重厚な銅版凹版印刷が特徴です。表面には田植え(女性7人)と稲刈り(農夫2人)の風景、
裏面には日本橋から見た富士山の遠望と五圓金貨の図が描かれています。透かし(すき入れ)は入っていません。
(出典:Wikipedia「国立銀行紙幣」記事(大蔵省印刷局『日本銀行券製造100年・歴史と技術』1984年を典拠とする記述部分)、国立公文書館「日本のあゆみ」明治5年11月|国立銀行条例が制定される https://www.archives.go.jp/ayumi/kobetsu/m05_1872_04.html 、国立印刷局「お札と切手の博物館」 https://www.npb.go.jp/museum/collection/gallery/osatu/kyukoku.html )
価格の見方
旧国立銀行券5円は、これまで紹介してきた記念貨幣や江戸期の小判金とは価値の考え方が大きく異なります。金貨・銀貨には地金(金・銀の重さ)としての価値がありますが、紙幣にはそうした素材価値がありません。すでに法定通貨としての効力も失っているため、この紙幣の価値はほぼ100%、古紙幣としての希少性・歴史的価値・状態によって決まります。
1. 当時の額面(5円)
発行当時の5円は現在の価値に単純換算できるものではありませんが、明治初期においては相応の高額紙幣であったことがうかがえます。あくまで歴史的な背景情報として押さえておきましょう。
2. 現在の法定通貨としての価値:なし
明治32年(1899年)の通用停止以降、この紙幣を銀行や店舗で1円としてでも使うことはできません。現金としての価値はゼロで、価値のすべてが古紙幣・骨董品としての評価に委ねられます。
3. 希少性・状態による評価
専門の古紙幣取扱業者が示すカタログ相場(二次情報)では、状態に応じておおむね次のような価格帯が示されています。
| 状態 | カタログ価格の目安 |
|---|---|
| 並品 | 約100万円 |
| 美品 | 約170万円 |
| 極美品 | 約250万円 |
過去の実際の取引例としても、2011年に並品以上で約320万円、2013年に美品で約125万円、2015年に美品で約170万円といった記録が確認できます(出典:古紙幣専門サイトのカタログ・取引実績。あくまで参考価格としてご覧ください)。
一方で、直近のオークションでは状態の悪い個体とみられるものが2万円台で落札された例もあり、同じ「旧国立銀行券5円」でも状態によって評価額が数十倍〜100倍近く変わることがあります。
偽物を見分けるポイント
旧国立銀行券5円は高額な古紙幣であるため、レプリカ・模造品が数多く出回っています。また、名前がよく似た全く別の紙幣(後述)と混同されるケースもあるため、次の5点を確認しましょう。
- 透かしがないことを確認する:この紙幣は仕様として透かし(すき入れ)が入っていません。現代の紙幣のような透かしを期待して「ないから偽物」と判断しないよう注意してください。
- 裏面の印刷会社名を確認する:裏面には印刷を請け負った「CONTINENTAL BANKNOTE Co. NEW YORK」の銘板が入っています。この印刷が不鮮明・存在しない場合はレプリカの可能性が高いです。
- 記番号の色を確認する:赤色(大蔵省の記番号、英字+アラビア数字)と緑色(発行銀行の記番号、漢字+漢数字)の2系統の記番号が両方揃っているかを確認しましょう。
- 発行銀行印を確認する:裏面には発行元の国立銀行(第一・第二・第四・第五国立銀行のいずれか)の印が押されています。この印から発行銀行を特定できるかを確認してください。
- 印刷の質感を確認する:本物は鋼版凹版印刷による細密な線・重厚な彩紋模様が特徴です。レプリカは平版印刷(オフセット印刷)のため、この独特の質感が再現できていないことが多いです。
別の紙幣との混同に注意:「旧国立銀行券5円」とよく似た名前で、通称「かじや5円」と呼ばれる「新国立銀行券5円」という別の紙幣が存在します。こちらは明治11年(1878年)以降に発行された不換紙幣で、旧国立銀行券(明治6年発行の兌換紙幣)とは全くの別物です。オークションサイトなどで検索すると両者が混在して表示されることがあるため、券面のデザインや発行年をよく確認しましょう。
現存数が少なく高額査定が期待できる紙幣であるだけに、購入・売却の前には必ずPMGなど信頼できる第三者鑑定機関の鑑定を受けることを強くおすすめします。
高く売る方法
自己判断せず、必ず専門機関に相談する
旧国立銀行券5円は、状態や真贋によって評価額が数十倍〜100倍近く変わることがある紙幣です。カタログ上は100万円を超える価値がつくこともある一方、状態が悪い、あるいはレプリカであれば数千円〜数万円にしかなりません。この価格差の大きさこそが、素人判断を避けるべき最大の理由です。
売却先の選び方
一般的な貴金属店や質店では、紙幣の歴史的価値や状態を正しく評価できないことがあります。旧国立銀行券5円のような高額古紙幣を売却する際は、古紙幣・古銭を専門に扱う買取業者、または日本紙幣商協同組合などの専門機関に相談することをおすすめします。
査定を依頼する際は、紙幣を折り曲げたり無理に伸ばしたりせず、できるだけ発見時の状態のまま持ち込むことが重要です。状態がそのまま評価額に直結するため、保管方法にも注意しましょう。可能であれば複数の専門業者に査定を依頼し、評価額を比較することをおすすめします。