墨書のない、桐紋があしらわれた楕円形の金貨をお持ちでしたら、それは天保五両判金かもしれません。天保五両判金は市場にほとんど出回ることなく短期間で役目を終えた、発行の経緯自体が特殊な金貨です。この記事では、天保五両判金の歴史的背景や仕様、価格の考え方、そして偽物との見分け方や売却時の注意点を解説します。
天保五両判金とは?
天保五両判金は、江戸幕府が天保8年(1837年)に発行を始めた大型の楕円形金貨です。当時は天保の飢饉などの影響で幕府の財政が悪化しており、老中・水野忠邦による「天保の改革」が進められていた時期でした。この財政対策の一環として発行されたのが天保五両判金です。
大判を鋳造する権利を持つ「大判座」の当主・後藤真乗が考案した貨幣でしたが、通貨として扱われることになったため、鋳造権は貨幣鋳造の本家である「金座」に移りました。そのため天保五両判金には、大判に見られるような後藤家の墨書がありません。
基本スペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発行開始 | 天保8年(1837年) |
| 鋳造期間 | 天保8年〜天保14年(1837年〜1843年)頃 |
| 規定量目 | 約33.75g |
| 品位 | 金84.2%・銀15.8% |
| 当時の額面 | 5両 |
表面には小判と同様の「光次」の極印、裏面には「五両」の文字と「保」の極印が刻まれています。墨書がない点が、同時期の大判や小判との大きな違いです。天保五両判金は市場にほとんど出回ることなくその役目を終えたため、現存数は少ないとされています。
(出典:日晃堂・緑和堂など古美術専門コラムの解説。量目33.75g・品位金84.2%/銀15.8%という数値は複数の記述で一致しており、古銭場のコイン詳細データとも整合しています)
価格の見方
天保五両判金は現代の法定通貨には数えられないため、額面をそのまま価値の物差しにすることはできません。価格を見る際は、次の3つの観点が手がかりになります。
1. 当時の価値表示
当時5両として扱われた価値は江戸期の貨幣制度に基づくもので、現在の円貨額へそのまま換算できる性質のものではありません。
2. 金・銀の地金価値
天保五両判金は金84.2%・銀15.8%の合金でできています。規定量目33.75gで計算すると、含まれる金は約28.4g、銀は約5.33gです。
田中貴金属の店頭買取価格(2026年8月25日17時公表、金1gあたり25,822円・銀1gあたり362.45円)で計算すると、金部分だけで約73万3,800円、銀部分は約1,900円となり、合計は約73万5,700円です。古銭場のコイン詳細データでは、執筆時点の材質価値は約68万1,800円と算出されており、大きなズレはありません。金銀相場そのものが日々動くため、参照時期によって数値は変わります。
3. 古銭としての希少性・骨董価値
天保五両判金は発行期間が短く、市場にほとんど出回らなかったという発行の経緯そのものが希少性の裏付けになっています。大判座と金座の間の権利争いという歴史的な背景も、コレクターからの評価につながっています。
一つ前の改鋳である元文小判金、幕末に発行された安政小判金についても別記事で解説しています。
現在の実勢相場
古銭専門買取業者アンティーリンクが公表している買取価格表では、天保五両判金の極美品は100万円(税込)とされています。買取福ちゃんのコラムでも「100万円前後が相場」と紹介されており、実際の買取実績として94万5,000円という事例も紹介されています。
複数の業者が示す価格帯はおおむね90万円台〜100万円程度に収まっており、地金価値(約70万円前後)に古銭としての希少性が上乗せされた水準といえます。
偽物を見分けるポイント
天保五両判金は現存数が少なく、それにもかかわらず贋作の流通量が比較的多いとされる貨幣です。最終的な真贋の判断は必ず専門機関に委ねることが前提になりますが、次の点を確認しましょう。
- 重量を量る:規定量目は33.75g前後です。大きくずれている場合は偽物を疑う理由になります。
- 素材と磁石への反応を確認する:金と銀の合金であり、どちらも磁石にはほとんど反応しません。磁石にはっきり引き寄せられる場合は偽物の可能性が高いです。
- 墨書がないことを確認する:天保五両判金には大判にあるような後藤家の墨書がありません。墨書があるものは天保五両判金ではない可能性があります。
- 極印を確認する:表面に「光次」、裏面に「五両」の文字と「保」の極印があるかを確認しましょう。極印の位置や書体が不自然な場合は注意が必要です。
- 鑑定は専門機関に任せる:以上はあくまで見た目上の判断材料です。試金石で削ったり自分で磨いたりすると査定額を大きく損ねるため厳禁で、日本貨幣商協同組合(JNDA)の鑑定実績がある古銭・古美術専門店への相談を強くおすすめします。
高く売る方法
貴金属店だけで判断を終わらせない
天保五両判金の価値は、金という素材の価値だけでなく、発行期間の短さや歴史的な背景による希少性が上乗せされたものです。そのため、一般的な貴金属店での地金買取だけでは、本来の価値を十分に評価してもらえない可能性があります。
売却先による違い
| 売却先 | 想定される評価の傾向 | 特徴 |
|---|---|---|
| 一般的な貴金属店・質店 | 金・銀の重量ベースでの評価が中心 | 地金価値としては評価されるが、希少性は評価されにくい |
| 古銭・古美術専門の買取業者 | 地金価値に希少性・状態を加味した評価 | 極印の状態や真贋も含めて総合的に査定してもらえる |
重さを確認したうえで、真贋の判断は専門業者に任せるのが賢明です。古銭・古美術の鑑定実績がある業者数社に査定を依頼し、評価額と対応内容を比較してから売却先を決めましょう。